
社長が考えている解雇理由と裁判所が考える解雇相当には大きい開きがある。
「1か月前に予告さえすれば、解雇はできる。」
「解雇予告手当を支払えば、当然に解雇できる。」
「就業規則上の解雇事由に該当すれば、当然に解雇できる。」
「「今月契約が取れなかったら解雇になっても構わない」という書面をもらっているので解雇することもできる。」
「正社員の解雇は難しいけれど、パート社員の解雇は容易だ。」
解雇についてこのように考えている社長の方がいらっしゃるのではないでしょうか。しかし、これらはすべて間違いです。
解雇のダメージは労働者の方が大きい
民法上、雇用期間の定めのない労働契約について、労働者と使用者の双方に自由な解約(辞職・解雇)を認めており、解約申込みから2週間の経過により契約は終了するものとして(民法627条)、使用者にも、2週間の予告期間を条件とする自由な解雇を認めています。
しかし、解雇は労働者にとって多大な不利益にあたることから、法律上厳格な要件が課されています。大抵の就業規則では解雇に該当する項目は以下にあげられていると思います。
(1)労働者の傷病や健康状態に基づく労働能力の喪失
(2)職務能力・成績・適格性の欠如
(3)欠勤、遅刻・相対、勤務態度不良等の職務怠慢
(4)経歴詐称
(5)業務命令違反、不正行為等の非違行為・服務規律違反
(6)経営上の必要性に基づく理由(⇒整理解雇)
経営者は上記の事由があればただちに解雇していいと考えがちですが、これらの事由に該当していることを前提があっても、解雇することが相当かどうか問題視されます。解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合には、解雇権を濫用したものとして解雇は無効になります(解雇権濫用法理。労契法16条)。
間違った認識のままでいると「不当解雇」で多額の金銭的支払いを裁判所から命じられることもあるので注意が必要です。
■不当解雇とは
解雇が有効になる要件を満たしていないのに解雇することをいいます。解雇に社会的相当性と客観的な合理性がなければ、解雇が無効になることがあります(労働契約法第16条 解雇権の濫用)。
これに加えて事例によっては、法令や裁判例によって解雇にはさまざまな制限が加えられています(強行法規による解雇禁止など)。客観的にみて、「正当な解雇」には相当ハードルが高い事になります。
解雇の種類について
(1)普通解雇
労働者が労働契約(雇用契約)で約束した内容に違反したこと(債務不履行)を理由とする契約の解消のことで、労働者が労働契約(雇用契約)で約束したとおりの労働義務を果たさなかったことによる解雇です。
(2)整理解雇
会社の業績悪化など、会社側の経営上の理由によって行う雇用契約の解消です。整理解雇は、普通解雇とは違って労働者の非はまったく問題とならず、労働者が約束どおりの労務を提供している場合でも、会社側の都合で行うこととなります。
(3)懲戒解雇
労働者が企業秩序に違反する重大な行為を行ったとき、会社が制裁としてする雇用契約の解消です。企業秩序に違反する行為に対する制裁を「懲戒処分」といいますが、会社が行う最も重い処分となります。過去の裁判の傾向から、会社は就業規則に記載のない事由での懲戒解雇はできないため、就業規則には具体的な事由を明記しておくことが必要です。
まとめ
解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合には、解雇権を濫用したものとして解雇は無効になります(解雇権濫用法理。労契法16条)。
社長にとって解雇権濫用法理に関する裁判所の判断傾向を知ることは、法律上無効な解雇をしてしまったがために多額の金銭支払をせざるを得ないという事態を回避するために極めて重要です。また、不当解雇のトラブルに備える損害保険について知っておくことも重要です。
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