
はじめに
建設工事において避けては通れないのが、やり直し工事です。万全を期して工事を進めても、仕様の誤認識や、人為的なミスによるやり直しは発生してしまうものです。ときには、建築主からの要望でやり直しが発生することもあるでしょう。
そんなとき、「保険で費用をカバーできれば……」と考える方が多いのではないでしょうか。しかし、一般的なPL保険(生産物賠償責任保険)は、やり直し工事に適用できません。やり直し工事をカバーするには、特約付きの保険に入る必要があります。
そこで今回は、やり直し工事にPL保険を適用できる特約を紹介します。やり直し工事が発生したときの望ましい対応についても解説するので、やり直し工事に対する備えを万全にしたいという方は、ぜひご覧になってみてください。
そもそもやり直し工事とは
まずはやり直し工事の概要をみていきましょう。ここでは、発生原因を軸にしてやり直し工事について解説します。
工事会社の施工ミスによるやり直し工事
やり直し工事が発生する主な要因は、施工会社の施工ミスです。設計図書の読み取り不足、下請業者への伝達ミスなど、さまざまな原因により施工ミスが発生し、やり直し工事が必要になります。
この場合、元請業者もしくは下請け業者が費用を負担します。発注者に非はないわけですから、当然、発注者に費用負担を求めることはできません。元請業者と下請業者のどちらの負担になるかは、ケースバイケース。一般的には、下請業者の責めに帰すべき理由がある場合は下請業者、それ以外の場合は元請け業者が負担します。
できるだけ費用を負担したくないと思うかもしれませんが、元請業者と下請業者の関係性は、やり直し工事の後も続くことを念頭に置くことが大切です。場合によっては、次の工事でも関係性が続くかもしれません。やり直し工事の負担割合の協議で揉めると、良好な関係性を保てなくなってしまいます。そんなとき、保険で費用の負担を軽減できるとよいですよね。やり直し工事に対する保険適用については次節で解説しますので、参考にしてみてください。
発注者の意向によるやり直し工事
建設プロジェクトは長期にわたるケースが多く、工事と並行して発注者が計画を詰めているケースが少なくありません。場合によっては、計画の方針変更により、やり直し工事が発生することがあります。イメージしやすい例でいうと、家づくりにおいて、既に床や壁を施工した部屋にコンセントを増設したい、といったケースです。
この場合は、発注者の負担となるのが基本であり、工事会社が費用を負担する必要はありません。必要な費用と工期を発注者に伝え、対応の可否を協議しましょう。
やり直し工事に保険は適用される?
冒頭で述べたとおり、基本的にはやり直し工事にPL保険を適用することはできません。しかし、一部の保険は、やり直し工事をカバーできる特約を用意しています。ここでは、やり直し工事を保険でカバーするときのポイントをみていきましょう。
通常のPL保険は適用されない
PL保険(生産物賠償責任保険)とは、第三者に提供した製品・業務・工事の結果が原因で、他人にケガをさせたり(対人事故)、他人の物を壊したり(対物事故)したために、法律上の損害賠責任によって生じる損害を補償する保険です。
適用ケースの具体例としては、以下のようなケースが考えられます。
「施工不良により外壁のタイルが落下し、下に停車していた他人の車のガラスが破損した。」
この場合、車の弁償代が補償されます。
PL保険の重要なポイントは、「他人」もしくは「他人の物」に被害が発生したときに、その弁償代などを補償してもらえるということです。つまり、上記の例でも、車の弁償代については補償が適用されますが、外壁のやり直しで必要な費用はカバーできないのです。
やり直し工事に適用できる特約:生産物特約
やり直し工事の費用をカバーできるPL保険の特約が、「生産物特約」です。保険の商品によって「目的物損壊担保特約」や「生産物自体の損害担保」などのように名称が異なることにご留意ください。
これらの特約のポイントは、生産物が他人に対人・対物事故を起こした場合に、事故原因となった生産物の再施工費用を保険でカバーできるということです。前述の具体例を引用すると、特約を適用できる・できないケースは以下のようになります。
【やり直し工事の費用にPL保険の特約を適用できるケース】
施工不良により外壁のタイルが落下し、下に停車していた他人の車のガラスが破損した。
【やり直し工事の費用にPL保険の特約を適用できないケース】
施工不良により外壁のタイルが落下したが、通行人や車などに被害は発生しなかった。
「他人に対人・対物事故を起こした場合」という条件はあるものの、大掛かりなやり直し工事が必要になる場合は心強い特約です。特に、敷地の外周付近での作業が多い場合や、竣工後に不特定多数のユーザーが利用する建物などでは、有効な特約といえるでしょう。
やり直し工事が発生したときの望ましい対応
やり直し工事が発生したときは、適切な対応を取らないと事態が複雑になっていく傾向があります。特に、発注者からやり直し工事を求められている場合は、誠意ある対応を取らないと信頼を失ってしまいます。反対に、真摯に対応できれば、信頼を勝ち取るチャンスになるかもしれません。
ここでは、やり直し工事が発生したときの望ましい対応について解説します。
発注者の指摘の確認および分析
発注者の指摘でやり直し工事を要求された場合は、まずその指摘の確認と分析を行いましょう。発注者の意図をしっかりと理解し、発注者が描く理想の姿と現物の違いを把握することが大切です。
やり直し工事の要否の判断
発注者の要求を理解できたら、やり直し工事の要否を判断します。設計図書に記されている仕様と現物が異なる場合は、工事会社のミスになるので、やり直し工事が必要です。
一方、発注者の要求が設計図書に記されている仕様と異なる場合は、基本的にはやり直し工事を実施する必要はありません。設計図書どおりに施工されていることを発注者に説明しましょう。発注者が設計図書と異なることを理解し、それでもなおやり直してほしいということであれば、必要な費用と工期を伝え、対応を協議します。
やり直し工事が必要なら素早く計画を進める
やり直し工事が必要と判断したときは、素早く計画を進めましょう。特に、施工会社のミスによるやり直し工事の場合は、迅速な対応が求められます。素早い動きで誠意を伝えるだけでなく、できるだけ発注者への負担が少ない方法を提案することで穏便にやり直し工事を進められます。
このときに大切なのは、発注者への説明および合意形成・書面作成といった手順をしっかりと踏むことです。誤解があるとやり直し工事の後に新たな紛争が起きてしまうので、書面での合意を怠ってはいけません。
また、元請業者と下請業者は、工事の段取り、責任の所在の確認、費用分担などを調整します。特に、責任の所在の確認や費用分担の協議は時間がかかりがちですが、発注者への対応が遅くならないように素早くまとめることが重要です。
やり直し工事の実施および発注者への報告
やり直し工事が完了した後は、発注者への報告および現地での確認を行います。やり直し工事の結果を写真や書類のみで報告することも考えられますが、現地で状況を確認することで、後のトラブルを防ぐだけでなく、誠意を感じ取ってもらいやすくなります。
おわりに
どんなに注意して工事を進めても、やり直し工事は発生してしまうものです。無条件にやり直し工事をカバーしてくれる保険はありませんが、第三者への人的・物的事故が起こりうる場合には、有効な特約が用意されています。やり直し工事の負担を少しでも軽減したいと考えている方は、特約付きの保険を選ぶとよいかもしれません。
建設業に精通した保険会社や保険代理店に相談しながら、自社にぴったりの最適な保険プランを提案してもらうことをおすすめします。