
はじめに
工事現場では数多くのトラブルが発生します。事故や災害により、物を壊したり、人にケガをさせたりすることもあるでしょう。場合によっては高額な賠償保証金が発生してしまいます。
そんなとき、工事関係者を金銭面で助けてくれるのが、各種の保険です。工事現場に関する多種多様な保険が用意されているため、適切な保険に加入しておくことで万が一に備えることができます。しかし、どんなケースにも対応できる保険はありません。
そこで今回は、工事現場に関する保険を総まとめします。「物」「被用者」「第三者」といった対象物で保険を分類していますので、ぜひ参考になさってください。
「物」に関する損害に対する保険
まずは、「物」に関する損害に対する保険を紹介します。建築・土木・組立工事のそれぞれに対し、「建設工事保険」「土木工事保険」「組立保険」が用意されています。工事種別に合わせて選択するようにしましょう。
建設工事保険
建設工事保険とは、建築工事中に現場で発生した不測かつ突発的な事故(火災、台風、盗難、作業ミスなど)によって生じた「物」などに関する損害に対して有効な保険です。対象となる損害が発生したときに、「損害保険金(復旧費・損害防止費用)」「残存物取片付け費用保険金」「臨時費用保険金」を受け取れます。
建築工事全般(新築・増築・改築・改装・改修)が対象ですが、以下の工事は対象にならないことが多いので留意しておきましょう。
【対象とならない工事】
- 解体、撤去、分解、取片付け工事
- 機械、装置、鋼構造物等を据付ける組立工事を主体とする工事
- 道路、上下水道等、土木構造物を建設する土木工事を主体とする工事
- 船舶にかかわる工事、海上浮揚物件にかかわる工事
また、一般的な「対象となる物」「対象とならない物」は以下のとおりです。
【対象となる物】
- 工事の目的物
- 本工事に付随する支保工、支持枠工、足場工、土留工、防護工その他の仮工事の目的物
- 工事用仮設物(工事のために仮設される電気配線、配管、電話、伝令設備、照明設備、保安設備)
- 現場事務所、宿舎、倉庫その他の工事用仮設物およびこれらに収容されている什器・備品(家具、衣類、寝具、事務用品およい非常用具に限る)
- 工事用材料および工事用仮設材
【対象とならない物】
- 据付機械設備などの工事用仮設備および工事用器具ならびにこれらの部品
- 航空機、船舶、水上運搬用具、機関車または自動車その他の車両
- 設計図書、証書、帳簿、通貨、有価証券その他これらに類する物
土木工事保険
土木工事保険とは、土木工事中に現場で発生した不測かつ突発的な事故(台風、集中豪雨、盗難、作業ミス等)によって生じた「物」などに関する損害に対して保険金が支払われる保険です。「建設工事保険」の「土木工事版」と理解するとよいでしょう。
土木工事保険は、道路建設、トンネル工事、土地造成などの土木工事全般を対象としています。建設工事保険と同様に解体、撤去、分解、取片付け工事や組立工事は対象としておらず、また、建設工事保険がカバーしている建築工事も対象外となっています。「対象となる物」「対象とならない物」は、基本的に「建設工事保険」と同様です。
組立保険
組立保険とは、組立工事中に現場で発生した不測かつ突発的な事故(火災、暴風、作業ミス等)によって生じた「物」などに関する損害に対して保険金が支払われる保険です。こちらは、「建設工事保険」の「組立工事版」といえます。
組立保険は、ビル内の空調・電気設備、ボイラー、タンク、変圧器といった「機械類」、鉄塔、鉄骨建物、アーケード、煙突などの「鋼構造物」、工場・プラント・発電所系の建物や、複数の設備機械が集まる施設における「設備一式」の組立工事を対象としています。建築工事と土木工事は対象にしていないので、それらの場合は、前述の「建設工事保険」「土木工事保険」を利用しましょう。
「被用者」に関する損害に対する保険
次に紹介するのは、労働災害が発生した際の「被用者」に関する損害に対する保険です。労働災害が発生した際、ケガをした当事者、そしてその家族を守るためにも、手厚くしておきたい保険です。
労災保険
労災保険制度とは、労働者の業務上の事由または通勤による労働者の傷病などに対して保険金が支払われる制度です。労働者を一人でも使用する場合は加入が義務付けられています。労働者を使用する事業主の方は、労働基準監督署もしくは公共職業安定所(ハローワーク)にて加入の手続きを行いましょう。
法定外補償保険
法定外補償保険とは、政府労災保険の給付の対象となる災害が発生したときに、政府労災保険に上乗せして補償するための保険です。「死亡補償」「後遺症補償」「休業補償」などが用意されており、従業員が通常どおり働けないときに、当事者とその家族の生活を支えてあげることができます。法定外補償保険に加入義務はありせんが、従業員を手厚く守るために大企業では導入が増えています。
使用者賠償責任保険
使用者賠償責任保険とは、政府労災保険の給付の対象となる災害が発生して被用者またはその遺族から損害賠償請求を受けたときに負担する損害賠償金などを補償する保険です。労働災害による逸失利益や慰謝料などは、高額になると数千万円になるケースもあります。場合によっては政府労災保険だけでは足りなくなってしまいますが、使用者賠償責任保険に加入していれば安心して工事を進められるでしょう。
労働災害総合保険
労働災害総合保険とは、上記の「法定外補償保険」および「使用者賠償責任保険」を組み合わせた総合保険です。万が一の労働災害に対する備えを万全にしたい方におすすめです。
「第三者」に関する損害に対する保険
最後に、「第三者」に関する損害に対して有効な保険を紹介します。
生産物賠償責任保険(PL保険)
生産物賠償責任保険、通称「PL保険」とは、工事の施工結果によって第三者に対人・対物事故を起こしたときに発生する賠償金や弁護士費用を補償する保険です。製造・販売業における製造・販売した製品による事故に対しても有効なので、認知度の高い保険といえます。
PL保険で補償を受けられるのは、以下のようなケースです。
- 建物を引き渡した後、施工不良により漏水が発生し、機械が壊れた
- 外壁タイルが落下し、歩道の通行人にケガをさせた
- 電気工事の配線ミスにより火災が発生し、隣家の外壁を焼損させた
建物の周囲を多くの通行人が往来する場合や、建物内部に高級な機械を設置するときなどに特に有効な保険であるといえるでしょう。
請負業者賠償責任保険
請負業者賠償責任保険とは、工事や作業に起因する第三者への対人・対物事故による賠償責任を補償する保険です。PL保険は「施工の結果」によって生じた事故を対象としているのに対し、請負業者賠償責任保険は「作業そのもの」によって生じた事故を対象にしています。
請負業者賠償責任保険が有効となるのは、以下のようなケースです。
- 工事中に誤って高所から工具を落とし、通行人にケガをさせた
- 工事中にクレーンが横転し、隣家を損壊させた
- 外装塗装中にペンキが垂れ、第三者の車に付着した
請負業者賠償責任保険では、保険に加入した元請業者に加え、その下請業者も自動的に被保険者になるのが一般的です。工事現場の規模が大きい場合、下請業者の数が膨大になるため、元請業者がすべての業者の管理を徹底することが難しくなります。安全管理の教育を積極的に行っても、目の行き届かないところで事故が発生してしまう可能性はあります。請負業者賠償責任保険は、大規模工事を扱う元請業者にとって心強い保険であるといえるでしょう、
おわりに
工事現場に関する事故や災害に対しては、多種多様な保険が用意されています。
建設業に精通した保険会社や保険代理店に相談しながら、自社にぴったりの最適な保険プランを提案してもらうことをおすすめします。