請負業者賠償責任保険/PL保険/業務災害補償保険とは? 工事の賠償責任に備える3つの保険を解説

はじめに

工事を行う上で業務災害は起きないことが一番ですが、予測できない作業中のケガや事故、製造物の欠陥による損害などをゼロにすることは困難です。

そこで必要となるのが工事の賠償責任に備える3つの保険、請負業者賠償責任保険/PL保険/業務災害補償保険です。

本記事では「請負業者賠償責任保険/PL保険/業務災害補償保険」について、保険でカバーできるケースや対象となる損害など、必ず押さえておきたい情報を詳しく解説します。

請負業者賠償責任保険

請負業者賠償責任保険は、請負作業を行っているとき、偶然に起こった事故に対する保険です。請負作業を行うために使用したり所有したり、管理している物が欠陥や不備などにより発生した突発的な事故や、管理している物の破損や汚損、消失や盗難などにも対応しています。

請負業者賠償責任保険の契約方式には「個別契約(スポット契約)」「年間包括契約」の2通りがあります。

・個別契約方式
それぞれの工事や仕事について、請負工事契約ごとに契約します。期間は着工から引き渡しまでとするのが個別契約方式です。
・年間包括契約方式
年間包括契約方式は、工事や仕事について、全てを一括して契約します。保険期間は文字通り1年間の契約です。

保険金が支払われるケース

請負業者賠償責任保険で保険金が支払われるケースをいくつか例示します。

■請負作業を行っているときの事故

【 対人の事故 】
・使用中の工具が落下して起こった他人のケガ
・外壁の塗装作業中に塗料を落下させたときの、通行人の体や衣類に塗料が付着
【 対物の事故 】
・施工中の型枠が倒れて起きた、隣接していた建物の損壊
・クレーン作業中に横転事故が発生し、他人の自転車が破損

■請負作業を行うための使用物による事故(所有や管理下にある施設の不備や欠陥を含む)

【 対人の事故 】
・外壁が落下し、通行人がケガ
・資材置き場に積んであった足場材の横倒しによる他人のケガ
【 対物の事故 】
・保管中のガスが、ガス漏れを起こして爆発し、隣接する家屋が破損
・養生シートが暴風で煽られて起きた自転車の破損

このように、請負業者賠償責任保険は、請負作業を行っている時や請負作業を行うために必要な使用物による事故に対して補う保険です。

支払われる保険金(対象となる損害)

請負業者賠償責任保険は、被害者に支払う損害賠償金や損害の発生を防止するための費用、弁護士に依頼した際の費用などが保険金として支払われます。保険金の対象となる主な費用は以下の通りです。

  1. 法律上の損害賠償責任に基づいて損害賠償請求権者に対して支払うべき治療費や修理費等(損害賠償請求権者に対する遅延損害金を含みます。)
  2. 事故が発生した場合の損害の発生または拡大の防止のために必要または有益であった費用
  3. 発生した事故について、他人から損害の賠償を受けることができる場合に、その権利を保全または行使するために必要な手続に要した費用
  4. 事故が発生した場合の緊急措置(他人の生命や身体を害した場合における被害者の応急手当等)に要した費用
  5. 当社が発生した事故の解決にあたる場合、当社へ協力するために要した費用
  6. 損害賠償に関する争訟について支出した訴訟費用、弁護士報酬等の費用


【注意】支払限度額などがあります
引用:三井住友海上「請負業者賠償責任保険p3」

PL保険(生産物賠償責任保険)

PL保険は「生産物賠償責任保険」とも言われる保険で、製造・販売したものに何らかの欠陥があり、それが元で被害が生じた際に補償をする保険です。被害とは利用者の生命・身体に関わる事故や、物を破損させた場合などを指します。

PL保険は法律上の賠償責任を払う際に被る損害に対して補償するための保険です。PLとは「Product Liability」の頭文字であり、日本語にすると製造物責任という意味です。

1995年7月1日にPL法(製造物責任法)が施行されました。PL法は製造後や販売後に事故が発生したとき、被害者がそのものによって損害を被ったことを証明できれば、製造した事業者に損害賠償請求ができることを定めた法律です。

注意したいのは、PL保険には国内向けと海外向けの2種類あることです。補償の対象を正しく判断し、加入しましょう。

保険金が支払われるケース

PL保険で保険金が支払われるケースを例示します。

【 対人の事故 】
・施工不良により、建物の外壁が剥がれて通行人がケガ
・電気製品の設置ミスで起きた感電事故
・設置した看板が脱落し、通行人がケガ

【 対物の事故 】
・防水工事の不備があったため起きた浸水
・内装工事の施工ミスで設備が倒れ、それによって起きた家具の損壊
・電気工事の不具合により漏電が発生し家電がショート

このように、PL保険は製造物の欠陥が原因で作業をした「後」に起きた損害を補償する保険です。なお、PL保険は飲食業や製造業でも補償されるケースがあります。

支払われる保険金(対象となる損害)

PL保険では、被害者に支払う損害賠償金や弁護士に依頼した際の費用、行使の手続きにかかった費用などが保険金として支払われます。保険金の対象となる主な費用は以下の通りです。

①被害者に対し法律上支払責任を負う損害賠償金
※賠償責任の承認・賠償金額の決定に際しましては、あらかじめ保険会社の承認が必要です
②保険会社の同意を得て支出した弁護士費用等の争訟費用
③他人から損害賠償を受ける権利の保全・行使手続または既に発生した事故に係る損害の発生・拡大の防止のために保険会社の同意を得て支出した費用
④賠償責任が無いことが判明した場合において、応急手当や護送等緊急措置に要した費用または保険会社の同意を得て支出した費用
⑤被保険者が保険会社の求めに応じて協力するために支出した費用

【注意】支払限度額などがあります
引用:商工3団体「中小企業PL保険制度p4」

業務災害補償保険

業務災害補償保険は、従業員が就業中に起きた災害に対して補償する保険です。従業員のケガや後遺障害、死亡や心の病などが対象となります。そして、事業者側に発生した使用者賠償責任にも備える保険です。

業務災害補償保険は、政府が所管する労働災害保険とは別の保険です。したがって、労働災害保険の補償の有無にかかわらず、保険金が支払われます。一方で、使用者賠償責任においては労働災害保険の決定を
待つケースがあります。

業務災害補償保険は、契約の際に「契約後に従業員の人数の変動」があっても申告は不要です。そして、アルバイトやパートを使用した際も、自動で補償されます。

保険金が支払われるケース

業務災害補償保険で保険金が支払われるケースは以下のものです。

【 従業員の心の病 】
・パワハラが原因でうつ病
・長時間の労働で過労自殺
・過酷な労働が原因で脳に重度の障害

【 従業員のケガなど 】
・高所作業中に転落してしまい大ケガ
・密室で作業中に有毒ガスによる急性中毒
・業務中に資材があたり脊髄損傷して後遺障害

このように、業務災害補償保険は従業員に対する補償や事業者にかかる賠償に備える保険です。

支払われる保険金(対象となる損害)

業務災害補償保険は、業務中のケガ、心筋梗塞やくも膜下出血などの業務上疾病、骨折や通勤中の熱射病などに保険金が支払われます。保険金の対象となる主な費用は以下の通りです。

■業務に従事中または通勤途上の急激かつ偶然な外来の事故によるケガ(骨折、やけどなど)
有毒ガス・有毒物質による急性中毒および業務に従事中に摂取した食品が原因の細菌性食中毒およびウイルス性食中毒も補償します。
■業務に従事中または通勤途上に生じた日射病および熱射病
■業務遂行に伴い生じた低酸素症、潜水病などの症状
■業務上疾病(くも膜下出血、心筋梗塞、うつ病など)
業務を原因とする病気を補償します。
ただし、アスベストが原因の病気、塵肺症(ジンパイショウ)を除きます。
なお、対象となる保険金とそれぞれのお支払い条件は、次のとおりです。

・死亡補償保険金・後遺障害補償保険金は、労災保険の給付が決定した場合に補償の対象となります。
・入院補償保険金・入院補償一時金・手術補償保険金は、労災保険の給付の請求が受理された場合で、保険期間中に入院を開始または手術を受けたときに補償の対象となります。
・業務上疾病休業補償保険金支払特約のうち、業務上疾病休業補償保険金は労災保険の給付が決定した場合で、保険期間中に就業不能となったときに補償の対象となります。
・業務上疾病休業補償保険金支払特約のうち、精神障害等休業補償一時金は、労災保険の給付の請求が受理された場合で、保険期間中に就業不能となったときに補償の対象となります。

■労災保険の給付が決定した自殺行為によるケガなど

【注意】支払限度額などがあります
引用:AIG損保「業務災害総合保険(ハイパー任意労災)/ 補償の対象となるケガなど」

まとめ

本記事では「請負業者賠償責任保険/PL保険/業務災害補償保険」の3つの保険を詳しく解説しました。簡単にまとめると以下の通りです。

  • 請負業者賠償責任保険は、請負作業で発生した偶然に起こった事故に対する保険
  • PL保険は、製造物の欠陥が原因で作業をした「後」に起きた損害に対する保険
  • 業務災害補償保険は、従業員や事業者に対する災害に対して補償する保険

それぞれ保険の対象となる事柄が違うため、状況に合わせた保険選びが大切です。また、補償内容は保険会社によって異なるため、自社の判断だけで契約するのではなく、工事の賠償責任に詳しい専門家に相談することをおすすめします。

この記事を書いた人

Takaya
Webライター、1級型枠施工技能士、2級ファイナンシャルプランニング技能士、1級小型船舶操縦士

多様なキャリアを経て、現在はWebライターとして活動しているTakayaです。3年間の執筆経験を通じて、読者を惹きつける文章を提供しています。1級型枠施工技能士としての実務経験を活かし、リアルな建設系記事を執筆。また、2級FP技能士の知識を基に、信頼性の高い金融関連コンテンツを提供しています。さらに、1級小型船舶操縦士の資格を持つ釣り愛好家としての視点を活かし、釣りに関する記事も執筆しています。
ブログ:多彩な経験を持つWebライター TAKAYA

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