はじめに
工事中の事故が起きるリスクに対し、PL保険や請負業者賠償責任保険で備える方は多いと思いますが、E&O保険をご存じでしょうか?
E&O保険は、工事現場や引き渡し後の建物などで、事故によらないミスによる経済的損害が起きた場合に対応できる保険です。PL保険など従来の保険と併用すれば、万が一への備えとしてより心強いです。本記事ではE&O保険について解説します。
E&O保険とは?
建設業に関わる保険は色々とありますが、なかでも近年注目されているのがE&O保険です。E&O保険では、建設工事中に業者が起こしたミスのほか、引き渡し後の事故以外のトラブルによる損害に対応できます。
E&O保険は比較的歴史の浅い保険であるため、よくわからない方もいるのではないでしょうか。そこではじめに、E&O保険の主な特徴を解説します。
業務中の過失や怠慢による損害に備える保険
E&O保険は「Errors & Omissions保険」の略で、業務中に発生した人的な過失や怠慢による損害に備えられる保険です。建設業の場合、建物などの不具合が原因で起きた経済的な損害を補償するために使われます。
E&O保険はもともと弁護士など専門性の高い職業で、過失によって顧客が損害を被った場合に補償する保険として海外で生まれました。現在では建設業のほか、製造業や金融業、情報通信業など幅広い業種向けに保険商品が生み出されています。
PL保険など従来の補償保険との違いは?
建設業のE&O保険とよく似たものが、PL保険や請負賠償責任保険です。
PL保険は「生産物賠償責任保険」のことで、製品の欠陥で第三者がけがをしたり、物が壊れたりした場合に備えられます。例えば建物の施工ミスで漏水が発生し、人が滑ってけがをしたり商品が水浸しになった場合などが補償されるケースです。
また請負賠償責任保険では、工事や作業に使う施設などで人にけがをさせたり物を壊したりした場合に対応できます。
PL保険と請負賠償責任保険は両方とも、人や物への事故による損害を補償するための保険です。ただ事故は起きていないものの、工事が原因で損害が生じた場合は補償されません。
E&O保険はPL保険などがカバーできない、事故以外が原因の経済的な損害に対処できます。逆に事故による損害には対応できません。E&O保険とPL保険・請負賠償責任保険は、お互いに補い合う関係と言えます。
E&O保険はなぜ誕生したのか?
建設業向けE&O保険が誕生した理由は、現代の建設業界が抱える問題と深い関わりがあります。E&O保険が誕生した理由や背景も見ていきましょう。
建設現場では工事関係者によるミスが非常に多いため
まず、建設現場で工事関係者によるミスが非常に多いことが挙げられます。建設作業中の施工ミスは、作業に関わった誰かによる些細な過失が原因であるケースも少なくありません。
例えば「身に着けた工具が設置前の配管に偶然当たって傷が付き、施工後に水漏れが発生して店舗の開店が延期になる」といったケースです。この場合は業者側の過失が原因であるため、業者は多額の賠償金を払う羽目になります。
「業者側の責任が認められても、損害賠償できるように」というニーズが高まったことで、E&O保険が登場しました。
建設業界の人材不足によるミスも関係している
また建設業界では人材不足が深刻です。少子高齢化や若年層が建設業界を避ける傾向もあり、熟練の職人が引退する一方、新たに入る若手の職人が不足している問題があります。
若手の職人不足は、熟練の職人による技術伝達がうまくいかない点でも深刻です。現場でも技術や経験が不十分な職人が多いため、何らかのミスが発生することもあります。
人材不足によるミスの増加も、業者が賠償すべき経済的な損害を膨らませたため、E&O保険の誕生に影響しました。
E&O保険のメリット
E&O保険を検討する際、加入のメリットを知っていれば、前向きに考えるきっかけになるでしょう。E&O保険のメリットは以下の通りです。
工事中に事故以外で発生した損害賠償責任を補償
まず、工事中に事故以外で発生した損害賠償責任を補償します。例えば、建設中の建築物の一部に施工ミスが見つかり、補修に時間がかかって引き渡しが遅れた場合などです。
上記のケースの場合、施工ミスした部分を自己負担で補修する必要があります。加えて引き渡しの延期で利用者に経済的な損害が出た場合、その賠償も行わなければなりません。
E&O保険では引き渡しの延期による損害賠償だけでなく、補修に必要な費用も補償されます。
引き渡し後の事故を伴わない経済的損害も補償
またE&O保険は、引き渡し後の建築物の欠陥などが原因で経済的損害が発生した場合も補償されます。例えば、コンビニの工事が完了して発注者に引き渡した後、柱のゆがみが発覚したケースです。この場合、ゆがみの修復費用に加え、予定通り開店した場合に発生した利益が失われたことへの損害賠償が想定されます。
E&O保険であれば、上記のケースで発生する2つの費用が補償される仕組みです。引き渡し後に発覚した施工ミスによる賠償にも対応できます。
E&O保険は補償対象外のケースもある
E&O保険は補償されないケースもあるため、検討の際にあわせて理解しておく必要があります。
事故によって発生した経済的損害は対象外
まずE&O保険は、工事中や引き渡し後の事故による経済的損害は対象になりません。例えば、引き渡し後の建物の漏電でお客様がやけどを負ったり、工事中の道路脇に置かれた釘が原因でカバンが割けたりした場合などです。前者のケースではPL保険で、後者のケースは請負業者賠償責任保険で補償されます。
工事に関わる事故による損害にも備えたい場合は、E&O保険に加えてPL保険や請負業者賠償責任保険も活用しましょう。
保険会社・商品によって補償される範囲は異なる
なお、E&O保険の補償範囲は保険会社や商品によって様々です。E&O保険が補償する項目は、大きく損害賠償金・損害防止費用・訴訟費用があります。
3つともカバーしているものもあれば、一部の項目が対象外のケースもあります。補償範囲に応じて加入する保険を決めたい場合は、必要な補償内容を決めた上で、複数の商品を比較すると良いでしょう。
E&O保険の保険料は保険会社・商品によって様々
E&O保険を検討する際、保険料も気になる点です。E&O保険の保険料も保険会社や商品によって異なります。加えて、支払い方法によって保険料が割増になるケースもあるため、注意が必要です。
詳しくは複数の保険会社や代理店に相見積もりをとると良いでしょう。保険料の相場を把握できる上に、現実的な金額で契約する際に役立ちます。
まとめ
E&O保険は、PL保険や請負業者賠償責任保険ではカバーしきれない損害賠償や、施工ミスへの対応費用が補償される保険です。事故以外による損害賠償は金額も大きくなりやすいため、PL保険などと併用する形で早めに備えておくことをおすすめします。建設業に精通した保険会社や保険代理店に相談しながら、自社にぴったりの最適な保険プランを提案してもらうことをおすすめします。
この記事を書いた人
和泉 直樹
2級ファイナンシャル・プランニング技能士
フリーランスライターとして2017年1月から活動中。2023年7月に2級ファイナンシャル・プランニング技能士を取得。保険も含め幅広いジャンルの金融系記事の執筆に携わった経験や、それを通じて得た専門知識での解説を行っている。