はじめに
工事現場では、「ゼロ災」達成に向け、さまざまな安全対策が取られています。しかし、天災や悪意のある第三者から現場を守るのは難しいものです。このような不可抗力による損害に対して保険を掛けられると安心して工事を進められますよね。
そんなときにおすすめなのが、「建設工事保険」です。建設工事保険に加入すると、火災、台風、盗難、作業ミスなどによる対物事故に対して保険金が支払われます。人に関する損害はカバーできないものの、建物だけでなく、仮設足場や現場事務所の復旧に必要な費用を補償してくれる心強い保険です。
工事に保険を掛けて安心して取り組みたいという方は、ぜひご覧になってみてください。
建設工事保険とは
さっそく、建設工事保険の概要をみていきましょう。
建設工事保険の概要
建設工事保険は、工事中に現場で発生した不測かつ突発的な事故(火災、台風、盗難、作業ミスなど)によって生じた「物」などに関する損害に対して有効な保険です。なお、「人」に関する損害は対象外なので、留意しておきましょう。
建設工事は、入念な施工計画に基づいて、事故が起こらないように万全を期して進められます。しかし、人為的なミス、自然災害、悪意のある第三者などによる被害は、どれだけ対策を取っていてもなかなかゼロにできるものではありません。
このような要因で発生する「不足かつ突発的な事故」によるリスクや不安を軽減するために用意されているのが、「建設工事保険」です。
保険商品によって細かい内容は異なりますが、建設工事保険では基本的に以下の保険金を受け取れます。
- 損害保険金(復旧費・損害防止費用)
- 残存物取片付け費用保険金
- 臨時費用保険金
上記を簡単にまとめると、対象物の「復旧費用+防止策のための費用+臨時費用」ということになります。仮修理費や排土・排水費用は復旧費には含まれない、といった留意点があるので、保険加入を検討する際は各保険商品の詳細を確認するようにしましょう。
建設工事保険の対象工事
建設工事保険は、建築工事(新築・増築・改築・改装・改修)を対象としています。一方で、解体工事や土木工事をメインとする工事は対象外になるケースがあります。「東京海上日動」の建設工事保険を参考に、対象とならない工事を紹介します*1。
【対象とならない工事】
- 解体、撤去、分解、取片付け工事
- 機械、装置、鋼構造物等を据付ける組立工事を主体とする工事
- 道路、上下水道等、土木構造物を建設する土木工事を主体とする工事
- 船舶にかかわる工事、海上浮揚物件にかかわる工事
建設工事保険の対象物
建設工事保険の対象となる物は、工事や仮工事の目的物、事務所の備品などです。ここでも、「東京海上日動」の建設工事保険を参考に、対象となる物、ならない物を紹介します*1。
【対象となる物】
- 工事の目的物
- 本工事に付随する支保工、支持枠工、足場工、土留工、防護工その他の仮工事の目的物
- 工事用仮設物(工事のために仮設される電気配線、配管、電話、伝令設備、照明設備、保安設備)
- 現場事務所、宿舎、倉庫その他の工事用仮設物およびこれらに収容されている什器・備品(家具、衣類、寝具、事務用品およい非常用具に限る)
- 工事用材料および工事用仮設材
【対象とならない物】
- 据付機械設備などの工事用仮設備および工事用器具ならびにこれらの部品
- 航空機、船舶、水上運搬用具、機関車または自動車その他の車両
- 設計図書、証書、帳簿、通貨、有価証券その他これらに類する物
保険金を受け取れるケースの具体例
ここでは、保険金を受け取れるケースの具体例を紹介します。天災による損害も挙げていますが、天災による損害に保険を適用する場合は留意点があります。天災に関する詳しい解説は次節に譲るので、参考になさってください。
- 溶接作業中に火災が発生して建設中の建物に損害が生じた
- 第三者の放火により火災が発生して建設中の建物に損害が生じた
- 施工ミスにより建設中の建物の床が落ちた
- 工事現場の電線が第三者に盗まれた
- 台風などの強風で建設中の建物の窓が割れた
天災による被害に関する留意点
建設工事保険は、一部の天災による損害が対象外になっています。ここでは、「台風」と「地震」による損害に対する建設工事保険の適用可否について解説します。
台風
台風の場合、損害の発生要因が「風災」か「水災」かによって適用可否が異なります。建設工事保険が対象としているのは「風災」のみです。したがって、「強風で窓ガラスが割れた」場合には保険金が支払われますが、「台風の豪雨で建物が流された」というような水災による損害は保険の対象外です。
保険商品によっては、高潮、洪水、内水氾濫または豪雨による土砂崩れ、崖崩れによる損害を対象に含める「水災危機担保特約」を設けています。水災に対しても保険を掛けておきたい方は、チェックしておきましょう。
地震
地震による損害は、建設工事保険の対象外であるケースが一般的です。さらに、地震によって発生する火災・津波による損害も基本的には対象外です。
建設工事保険に「地震危機担保特約」が用意されていることはあまりないため、地震時にも倒壊しないように仮設足場を細かく建物に緊結するなど、損害の防止策を取ることが大切です。
建設工事保険との併用におすすめの保険
建設工事保険は、「工事現場」で発生した「物」に関する損害に有効な保険であることを述べました。ここでは、建設工事保険の対象外である「現場の外」や「人」に関する損害をカバーする保険を紹介します。
貨物保険
貨物保険とは、資材などが工事現場まで運搬されている間に発生した事故によって生じる物的損害を補償する保険です。国際間の輸送を対象とする「外航貨物海上保険」、日本国内の船舶輸送を対象とする「内航貨物海上保険」、日本国内の陸上・航空輸送を対象とする「運送保険」があります。
近年は、中国や韓国で加工した鉄骨や、欧米産のデザイン性が高い石材など、多くの材料を海外から輸送しています。高価な材料を海外輸送する場合は、「外航貨物海上保険」が有効かもしれません。
請負業者賠償責任保険・生産物賠償責任保険
請負業者賠償責任保険及び生産物賠償責任保険は、第三者に対する対人・対物事故によって生じる損害に対する損害賠償責任を補償する保険です。請負業者賠償責任保険は「工事や作業を行った人」が起こした事故を対象としており、生産物賠償責任保険は「生産した製品や仕事の結果」によって発生した事故を対象としています。
労働災害総合保険
労働災害総合保険とは、政府労災保険への加入を前提に、工事施工による従業員の身体障害について発生する補償や損害賠償責任に対して保険金が支払われる保険であり、「法定外補償保険」と「使用者賠償責任保険」があります。法定外補償保険は、政府労災保険の上乗せとして企業が災害補償を行う場合に保険金が支払われます。一方、使用者賠償責任保険は、企業が負担する民事上の損害賠償責任に対して有効です。
おわりに
建設工事保険は、工事中の対物事故に対して有効な保険です。火災、台風、盗難、作業ミスによる被害を幅広くカバーしてくれる心強い保険といえるでしょう。しかし、人為的な火災は対象にしているが、地震によって発生する火災は対象外であることなど、対象範囲がやや難解です。加入を検討する際は、対象となる工事・物をよく確認し、必要に応じて特例の追加や他の保険との併用を検討しましょう。建設業に精通した保険会社や保険代理店に相談しながら、自社にぴったりの最適な保険プランを提案してもらうことをおすすめします。
*1 参考:建設工事保険(東京海上日動)