工期遅延が起きた時の損害賠償リスクを最小限にする方法を解説。リスクに備える保険も

はじめに

工事を進めていると、天災など様々な要因で工期が遅れる場合があります。もし工期の遅延で引き渡しまで後にずれた場合、多額の損害賠償を求められることも多いです。

しかし工期遅延が起きた際、損害賠償リスクを最小限にする方法があります。本記事では工期遅延による損害賠償を最小限に抑える方法を、工期の遅延を防ぐ方法とともに解説していきます。

工期遅延による損害賠償金は高額になるケースも

建設工事では事前に綿密な工期を組むものの、計画通りに進むとは限りません。もし工期が遅れた場合、高額の損害賠償が発生するリスクもあります。

工期遅延による損害賠償金が具体的にいくら請求されるのかは、リスク防止の意味でも事前に予測しておきたいところです。損害賠償金の計算方法や、他に発生する費用などを見ていきましょう。

工事遅延の損害賠償金の計算方法

工期遅延時の損害賠償金がいくらになるのかは、遅れた時の状況によって異なります。ただ工事を始める際に依頼主と業者が交わす請負契約書には、違約金(損害賠償金)の取り決めがあるのが一般的です。

違約金の取り決めは「民間連合約款」と呼ばれる、国の中央建設業審議会や建設業の業界団体が作成した契約書のモデルが多く適用されます。約款では「遅滞日数に応じて、請負代金額に対して年10%の割合で計算した額の違約金を請求することができる」(第33条1項)(引用元:https://www.mlit.go.jp/common/000125560.pdf P.27)と記載されています。なお「遅滞日数」は、建築物などの引き渡し期限から遅れた日数のことです。

約款のルール通りに計算する場合、請負代金×10%(0.1)×遅れた日数/365日で出た数字が損害賠償金額です。例えば、請負代金が3,000万円で遅延した日数が20日の場合は、3,000万円×10%×20日/365日で16万4,284円となります。

また新築工事だけでなくリフォーム工事でも、納期より遅れた場合は損害賠償金が発生するのが一般的です。リフォーム工事の遅延損害金は、1日遅れるたびに未了分の工事代金×14.6%が請求されます。(第14条1項)(引用元:https://www.j-reform.com/publish/pdf_shosiki/uke.pdf P.01)未了分の工事代金が200万円で5日遅れた場合は、1日につき200万円×14.6%=29万2,000円、5日で146万円です。

不測の事態でも損害賠償金を請求されることがある

工期遅延は自然災害などの不測の事態が原因でも、損害賠償を請求される場合があります。近年でも新型コロナウイルス感染症の流行で工事が中断するケースがありましたが、それでも発注者から損害賠償を求められた事例があります。

特に夏の台風や冬の積雪のように、自然災害で遅延するリスクが高い季節の工事は注意が必要です。

遅延損害金以外に支払う費用もある

工期遅延が発生した場合、業者側が払う費用は遅延損害金だけではありません。延長した日数分の職人・作業員の人件費や追加の資材費用などです。重機をリースしている場合は、追加日数分のリース料金も求められます。

工期が遅れた場合に発生するコストは、想像以上に膨らみやすいです。ただ工期遅延への対策を十分立てておくことで、損害賠償を含むコストを最小限に抑えられます。次の章では、工期遅延による損害賠償リスクを最小限に抑える方法を見ていきましょう。

工期遅延の損害賠償のリスクを最小限に抑える方法

工期が遅延した場合、多額の損害賠償を請求される事態は避けたいところです。実は工期遅延による損害賠償のリスクを最小限にする方法はいくつかあります。

請負契約書に違約金に関する条項を記載する

まず請負契約を交わす前にできるのが、契約書に違約金(損害賠償金)に関する条項を記載することです。具体的には、天災のような不測の事態で工事が遅れた場合、違約金が発生しない文言を盛り込みます。

事前に上記の規定を記載しておけば、不測の事態という理不尽な状況で損害賠償を請求されることは防げます。

職人不足が原因であれば解消の見込みをしっかり説明する

また職人不足で工期が遅れた場合は、遅れを取り戻せる見込みをきちんと説明するべきです。近年では全国各地での大規模な開発プロジェクトの影響で、職人不足が大きな問題になっています。

2024年4月には、建設業でも働き方改革の一環で年最大720時間の残業規制が導入されました。以前に比べて職人の確保が難しくなってきているため、人員が原因で工期が遅れるリスクも増大しています。

職人不足が原因である場合、現時点で足りていない人数や補充される時期などの見込みを立てることが大切です。同時に人員が補充された後、いつまでに遅れを取り戻せるかの予想も立てます。そして発注者に対して、いつまでに工事が完了して引き渡せるのかをしっかり説明することが重要です。

説明の際、取るべき責任の範囲や損害賠償額について問われる場合もあります。賠償責任についても誠実に説明することが重要です。

施主都合の場合は工期が遅れる可能性について同意を得る

工期の遅延は施主の都合で発生する場合もあります。具体的には施主の要望で工事内容を変更・追加したものの、資材の調達に時間がかかって遅れるパターンなどです。

もし施主の都合で遅れる可能性がある場合は、事前に施主に遅れることや工期遅れによる免責に対する同意を取っておきましょう。特に後者の場合、変更や追加に伴う工事は施主の要望に基づくものであるため、責任を取れない旨はしっかり伝えるべきです。

施主との打ち合わせは、必ずメールなど文字によるやりとりで進めましょう。文字として記録が残り、後から発言にまつわるトラブルを避けられるためです。

幅広い工期遅延リスクに対応した保険で備える

工期の遅延による損害賠償への対策は保険でもできます。できれば、幅広い工期遅延リスクに対応した保険に加入するのがおすすめです。

一般的な工期遅延補償の保険では、現場で第三者に対する人的・物的な事故が起きた場合でなければ補償されません。補償されるケースがあまりにも限られているため、様々な理由をもとに補償する保険が必要です。

幅広い工期遅延に備えられる保険を検討したい場合は、建設会社向け保険を提供している保険会社や代理店に相談すると良いでしょう。

工期遅延による損害賠償を未然に防ぐ方法

工期遅延で発生する損害賠償は、できれば遅延を未然に防げるのが理想的です。以下の方法を活用すれば、損害賠償を防ぐ上で役に立ちます。

進捗の滞りを感じた時点で工程を組み直す

工事中に滞りを感じた時点で工程を組み直しましょう。社内の関係者のほか、発注者や工事関係者に原因や現在の状況を説明し、速やかな工程の組み直しへの理解を求めます。滞っている状況を改善できる工程表を作成した上で、社内の関係者に共有して承認や意見を求めましょう。

社内で工程表の案が固まったら、発注者に提示して同意をもらいます。同意が得られたら現場の関係者にも説明し、確認や同意を得ましょう。

工期が遅れやすい時期は工程に余裕を持たせる

工期でも台風や積雪、年末年始などの大型連休は特に遅れが発生しやすいため、工程に余裕を持たせることが重要です。資材の調達や人員の確保に多大な影響が出る分、工事が遅れることも多々あります。

自然現象や大型連休による影響を極力抑えるには、ある程度工事が中止になる日を見込んだ工程作りが必要です。あわせて予備日の設定や、資材を搬入できる時期の確認も綿密に行うと良いでしょう。

施主や作業員などと進捗状況を共有できる体制を作る

不測の事態による工期の遅れを防ぐには、日頃から進捗状況を共有できる体制も欠かせません。自社・協力会社・施主・作業員で進捗状況を確認できる体制を作っておけば、何か起きた時にも迅速にスケジュールの調整や修正ができます。関係者間での情報交換の機会もこまめに設けるべきです。

加えて社内でも、現場の最新状況を早めに把握できる仕組みを作ると良いでしょう。組んだ工期通りに作業が進んでいるかなどを確認できれば、トラブルの発生時にも迅速に対応できます。

人手不足に対して十分な対策を立てる

人手不足への十分な対策も、工期遅れを防ぐ有効な手立てです。近年では建設プロジェクトの多さなどで職人を巡る競争が発生している分、ベテランの職人を確保できない問題も起きています。

人手不足に上手に対応するには、工期が決まり次第早めに職人たちに依頼することが大切です。同時に事前の丁寧な連絡や説明を心掛けることで、職人を多く集められる可能性が高まります。

あわせて工期に余裕を持たせることもおすすめです。工期に余裕があれば、職人が週2日は休めて、残業時間もなるべく少なくできる分、作業でのミスや事故も防げます。

まとめ

工期遅延による損害賠償は受注金額に応じて高くなりがちです。しかし工期遅延の損害賠償を最小化する対策は色々とあるため、活用すれば損害賠償のリスクを大きく抑えられます。

加えて工期遅延を前もって防止する手段もあるため、可能な限り日頃から意識すると良いでしょう。本記事で触れた内容で、少しでも工期遅延のリスクを抑えていただければ幸いです。
建設業に精通した保険会社や保険代理店に相談しながら、自社にぴったりの最適な保険プランを提案してもらうことをおすすめします。

この記事を書いた人

和泉 直樹
2級ファイナンシャル・プランニング技能士

フリーランスライターとして2017年1月から活動中。2023年7月に2級ファイナンシャル・プランニング技能士を取得。保険も含め幅広いジャンルの金融系記事の執筆に携わった経験や、それを通じて得た専門知識での解説を行っている。

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