はじめに
建設事故に備えて加入する「組立保険」はどのような保険かご存知でしょうか。一般的に保険の内容は複雑なため、難しく捉えられがちです。したがって、分からないままにしてしまっているという経営者の方もいらっしゃるでしょう。しかし、いざという時の事故に備えて補償してもらえるよう、ある程度は内容を把握しておく必要があります。
そこで本記事では、組立保険について詳しく解説します。あわせて注意点も4つご紹介するので、ぜひ参考にしてください。※組立保険の内容は保険会社によって異なります。
組立保険とは?
組立保険とは、工事現場における建物の内装や外装、冷暖房やボイラーなどの機械や設備の工事、または付帯設備の工事で発生した損害に対する保険のことです。
損害が発生する直前の状態まで復旧させるためにかかる修理費(復旧費)を補償します。「組立」とあるように、組立工事中の不測な状況や突発的な原因で発生した損害をカバーする保険です。
人や賠償に対する保険とは異なり、「物の損害」が対象です。ただし、オプションで損害賠償責任担保特約条項をつけることで、人を怪我させたり財産に損害を与えたりした場合の賠償もカバーできます。
組立保険とよく似ている保険に「建設工事保険」があります。建設工事保険は建築物に対する保険で、工場やビル、店舗や住宅などが対象です。大まかに分類すると、建設工事保険は「建物本体」で、組立保険は「建物本体以外」を組み立てる際の保険です。
組立保険の補償内容
組立保険の補償内容として、以下3つをそれぞれ解説します。
- 組立保険の対象と対象外
- 支払われる保険金の計算方法
- 組立保険の補償期間
1. 組立保険の対象と対象外
<組立保険の対象>
組立保険の対象となるのは、工事中の不測な状況や突発的な原因で発生した損害です。たとえば、ボイラーの組立作業を行っている際の事故や施工ミス、自然災害による事故、盗難やいたずらにあった時の損害などが該当します。自然災害に該当するのは、暴風雨や台風、洪水などの水害です。また、火災や爆発も対象となります。
<組立保険の対象外>
組立保険は、工事中の不測かつ突発的な損害をカバーする保険です。したがって、契約者や被保険者、工事現場責任者による故意・重過失、法令違反が原因で発生した損害は補償対象外となります。
そのほか、保険の対象外となる主な事例は以下の通りです。
- 工事期間の遅延で発生した損害
- 自然に起こった劣化や消耗(サビも含む)
- 地震や噴火、津波、放射性物質による損害
- 労働争議中の破壊行為、集団暴動による損害
- テロ行為や内乱、外国の武力行使による損害
- 官公庁による差押えや収用などで発生した損害
2. 支払われる保険金の計算方法
支払われる保険金の計算方法は、保険会社によって多少異なります。ここでは、東京海上日動の「お支払いする保険金」を例としてご紹介します。
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お支払いする保険金*1 = 復旧費 − 残存物価額 + 損害の拡大防止費用 − 被保険者自己負担額
*1 1回の事故につき、保険金額を限度としてお支払いいたします。
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引用:東京海上日動「補償内容・お支払いする保険金」
支払われる保険金の計算方法は、復旧費に損害の拡大防止費用を足して、そこから残存物価額と被保険者自己負担額を引いて割り出します。
復旧費と残存物価額については、以下をご確認ください。
<復旧費とは>
復旧費とは事故が起きる前の状態に復旧するための費用です。詳しく説明すると、復旧のために直接かかる修理費や修理に関する点検・検査の費用を指します。ただし、修理の前に仮に行った修理(仮修理費)の費用や復旧するために行われた研究の費用などは、対象にならないケースがあるため確認が必要です。
<残存物価額とは>
残存物価額とは損害が起きたあとに残った物(残存物)を、客観的な視点で見た経済的な価値(価額)のことです。簡単に説明すると、「壊れた後に残っていたまだ使える物に、一般的に見てつけた値段」のようなものです。
支払われる保険金の計算方法には、「掛けた保険の金額」や「請負金額」などが関係するケースがあります。それぞれの保険内容をご確認ください。
3. 組立保険の補償期間
補償期間は基本的に、工事現場で使う材料や部品などが持ち込まれてから、組み立てして完成した後の引き渡しまでの間です。引き渡しがない場合は、工事完了または保険の対象物が操業したときが終了となります。
したがって、組立保険に加入する場合は、工事の契約が締結した日から工事が始まる日(着工日)の間に手続きを行う必要があります。
保険期間中に完成しない場合は、保険期間が終了する前に延長の手続きを行いましょう。手続きがされなければ災害の補償を受けられません。
組立保険の注意点
ここからは組立保険の4つの注意点についてご紹介します。
- 該当しない工事では補償されない
- 加入していないと受注できないこともある
- 告知義務がある
- 似ている保険がある
1. 該当しない工事では補償されない
組立保険に該当しない工事は、建物の解体や分解、撤去や取片付け工事です。これらは「組み立て」には該当しないからです。そのほか、船舶に関わる工事も該当しません。組立保険は建物に対する保険のため、船舶や航空機、機関車や自動車、または、そのほかの車両などの工事は含まれません。
また、保険契約後に発生した追加工事部分は、新たに契約しなければ対象外となるため注意が必要です。
2. 加入していないと受注できないこともある
組立保険は任意保険であり、法的な加入義務がありません。しかし、工事の発注者や元請けがもしもに備えて保険の加入を義務化している場合があります。その場合は、条件として組立保険に加入しなければ工事の受注ができなくなります。
3. 告知義務(告知事項)がある
保険の契約者または被保険者は、契約をする際に正確な事実を告げる義務があり、これを「告知義務」と言います。
故意に事実を告げなかったり事実とは異なる内容を告げたりした場合は、「契約が解除される」「保険金を受け取れなくなる」などの不利益を被るケースもあるため、契約時には必ず正確な事実を伝えるようにしましょう。
4. 似ている保険がある
組立保険には似ている保険があります。先にお伝えした「建設工事保険」のほかに、「土木工事保険」「火災保険」があります。
<組立保険との違い>
建設工事保険:保険で工場やビル、店舗や住宅などの「建物」が対象
土木工事保険:上下水道工事やトンネル工事、道路建設などの「土木工事」が対象
火災保険:「火災」に対するケースのみが対象
組立保険は電気設備や冷暖房、タンクといった付帯設備が対象であり、建物そのものや土木工事は対象ではありません。
組立保険も火災保険も火災による損害を補償しますが、組立保険は組立工事中の不測かつ突発的な火災に限定されるのに対して、火災保険は完成した建物を対象とする保険です(ただし一部、建設中の建物でも加入できる保険あり)。また、火災保険は基本的に火災のみを対象(地震保険を付帯可)としています。
組立保険とは似ていても別の保険であるため、どちらに加入するべきか検討する必要があります。
まとめ
組立保険は工事現場における万が一の事故に備える保険です。プロジェクトの内容や規模によっては大きな損失となるため、十分に検討することが大切です。
発注者や元請けによっては加入を義務としているケースもあります。したがって受注側は、組立保険の保険料をあらかじめコストに組み入れておく必要があるでしょう。
組立保険の内容は保険会社によって異なる場合があります。自社の事業に最適な保険を選択するためには、建設・工事の保険に通じた専門家に相談することをおすすめします。
この記事を書いた人
Takaya
Webライター、1級型枠施工技能士、2級ファイナンシャルプランニング技能士、1級小型船舶操縦士
多様なキャリアを経て、現在はWebライターとして活動しているTakayaです。3年間の執筆経験を通じて、読者を惹きつける文章を提供しています。1級型枠施工技能士としての実務経験を活かし、リアルな建設系記事を執筆。また、2級FP技能士の知識を基に、信頼性の高い金融関連コンテンツを提供しています。さらに、1級小型船舶操縦士の資格を持つ釣り愛好家としての視点を活かし、釣りに関する記事も執筆しています。
ブログ:多彩な経験を持つWebライター TAKAYA